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個人事業主(フリーランス)で開業届を出してないとどうなる?青色申告・経費・領収書・給付金を含めて解説

独立して事業を始めることを申告する「開業届」は、個人事業主が作成、提出する書類です。

確定申告に関係する大切なもの、そしてあなたが個人事業主であることの証明にもなりますから、忘れずに行っておきたい届出です。

書類を作って提出するのは面倒なイメージもありますが、もし開業届を出さないまま事業を開始した場合にはどうなるのでしょうか。罰則などのペナルティも気になるところです。

この記事では個人事業主のスタートとなる開業届の提出について、実際に長らく個人事業主として活動している私が、これから個人事業主として仕事をしたいと考えている皆さんに役立つ基本的な情報をお伝えします。

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そもそも「個人事業主」とは?

そもそも「個人事業主」とは?

株式会社のような法人ではなく、個人として仕事をするのが個人事業主です。そこまでは分かっていますが・・・実際に自分がその立場で働くとなれば、細かい定義や条件を頭に入れておく必要もあるでしょう。

まずは個人事業主が社会においてどのような位置づけとなるのか、その概要から触れていきます。

個人事業主の定義

個人事業主は、法人を設立せずに独立する形態です。一般的には税法上の区分として使用する表現ですが、会社を興さない形で自分の屋号を掲げ、継続的に事業を行うのが大きな特徴です。

定義を説明する上でよく使われるのが「法人ではない」という表現です。法人の対義語として個人という名称を用いられますが、個人だからといって事業のすべてを1人でやらなければいけない決まりはありません。

個人事業主になるための条件

個人事業主として仕事をするために、必ず満たすべき条件というものは特に設けられていません。つまり自分のやりたいことさえ決まっていれば、形の上ではいつでも、誰でも個人事業主になれます。

ただし個人事業主であることが公に認められるためには、税務署へ開業届を提出することが必要です。開業届については後の項目で詳しくご紹介いたします。

また個人事業主には年齢の制限が定められていません。学生や子供でも個人事業主になれますが、未成年者については開業届の提出にあたって親の同意を得ることが必要です。

個人事業主とフリーランスの違い

個人事業主とフリーランスの違い

個人事業主とフリーランスは何が違うのか。あなたは正しく理解されているでしょうか。どちらも似たようなニュアンスで使われることが少なくないように感じますが、この2つ、同じ意味ではありません。

個人事業主は「税法上の区分」、フリーランスは「労働形態」を指す用語であるという大きな違いがあります。よって個人事業主に比べてフリーランスの対象範囲は広くなります。

個人事業主はフリーランスの中に含まれますが、法人化して事業を行う個人もフリーランスであることに変わりないからです。

ちなみに枠をさらに広げれば、個人事業主もフリーランスも会社に属さない立場。よって独立して仕事をしているという意味で「自営業」という大きな括りの中にあると考えて良いことになります。

正社員でも個人事業主になれる?

では企業で雇用関係を結んで働いている正社員は、個人事業主になれないのでしょうか。

「可能だが、例外もある」が答えです。

正社員が個人事業主になる場合、空いた時間に副業として独立した事業を行う形が一般的です。ただし就業規則で副業が認められていない企業もあるため、すべての正社員が個人事業主になれる訳ではありません。

最近では公務員の副業も解禁されつつありますが、事業内容によっては承認されないケースもあるので注意が必要です。

また個人事業主として得た収入については、別途確定申告を行うことが原則となります。企業は代行してくれませんので、忘れずに自分で申告しましょう。

こんな職業も「個人事業主」に該当する

個人事業主は基本的に雇用ではなく、請負や業務委託という形で仕事をします。よってこの働き方に該当する職業の多くは個人事業主となるのです。

個人商店、税理士や社労士といった士業、タクシーやトラックの運転手、カメラマンやデザイナーなど、いずれも法人化せず個人事業主として働く人が大勢いる職業です。

またチームと個別に契約を結ぶプロスポーツ選手や、所属事務所とのマネジメント契約が一般的となる歌手やタレントなどの芸能人も、税法上の区分は個人事業主です。

開業届の出し方

開業届の出し方

国税庁のホームページでは、開業届の手続きを行う対象者を「新たに事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき事業の開始等をした方」としています。個人事業主は新たに事業所得を生ずる事業を行うことになるため、開業届を出す対象に含まれます。

しかし会社設立の手続きとは違い、開業届は意外と簡単に作成することができます。書類はWebからでも手に入るので、提出までの手間はほとんど掛かりません。

ここからは開業届の出し方についてご紹介します。

開業届に必要な書類

開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」。この書類を作成・提出して受理されれば、個人事業主として開業したことが公に認められます。届出にあたっては原本と自分で保管する控えの2部が必要です。

もう1つ、青色申告を希望する個人事業主は「所得税の青色申告承認申請書」も提出が必要となります。こちらも原本と控えの2部を作成し、上記の開業届と同時に出すことができます。

書類はインターネット上でも取得可能。スマホでの申請もできる

「個人事業の開業・廃業等届出書」ならびに「所得税の青色申告承認申請書」の用紙は最寄りの税務署で手に入ります。以下、国税庁のホームページからダウンロードすることもできますので、便利に活用しましょう。

個人事業の開業届出・廃業届出等手続

所得税の青色申告承認申請手続

また開業届についてはe-tax(国税電子申告・納税システム)を使った電子申請も可能です。ペーパーレスとなるため、スマホでも開業届が出せます。

開業届の書き方と提出方法

開業届の書き方と提出方法

開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)の作成に必要となる主な記入項目は以下の通りです。用紙に記入して提出する場合には、控えも含めて同じ書類を2部作成します。

  • 納税地(住所地、居所地、事業所のいずれか)
  • 氏名(捺印)、生年月日
  • 個人番号(マイナンバー)
  • 職業
  • 屋号

開業届には申請者の個人番号(マイナンバー)が必要です。マイナンバーカードあるいはマイナンバーを証明する書類を用意しておきましょう。

また法人の会社名にあたる「屋号」についても自由に決めることができますが、屋号をつけず個人名で事業を行っても構いません。開業届と控えの2部(「所得税の青色申告承認申請手続」も提出する場合は計4部)を管轄の税務署に持参あるいは郵送すれば完了です。

税務署から返送される「控え」は大切に管理を

税務署から返送される「控え」
開業届を出すメリット・デメリット

開業届は単なる税務署からのお墨付きではありません。開業届を提出することで、あなたが個人事業主として仕事をする上でのさまざまなメリットをもたらしてくれます。

メリットの大筋は節税効果と社会的信用の向上となりますが、状況によっては開業届を出すことがデメリットとなる場合もあるので注意しましょう。開業届を出す主なメリット、デメリットは以下の通りです。

メリット(1)収入が所得控除の対象となって節税できる

開業届を提出した個人事業主については、青色申告によって最大65万円の所得控除を受けることが可能です。この控除で所得税や住民税、国民健康保険の保険料について支払額を減らすことができるので、金銭的なメリットが大きくなるのは間違いありません。

なお青色申告ができるのは「所得税の青色申告承認申請手続」を提出した個人事業主に限られます。白色申告は控除対象外ですので注意しましょう。

メリット(2)経費として認められる幅が広がる

経費として認められる幅が広がる

これも青色申告を行った個人事業主のメリットとして、事業経費として認められる項目を増やすことができます。該当する人が多いのは「少額減価償却資産の特例」です。

パソコンや機械など事業で使用する減価償却資産について10万円を超えて購入した場合、通常なら耐用年数に応じた費用を毎年計上する必要があります。

しかし青色申告をした個人事業主は30万円未満の減価償却資産であれば、使った期間を問わず一括で経費として算入できるので大きな節税効果が得られます。

他にも家族(15歳以上)に給与を支払っている場合にはその金額を上限なくすべて経費にできる(青色事業専従者給与)、自宅をオフィスとして使用した場合に家賃や光熱費、通信費などを経費として認められる(家事按分)といったメリットも、該当する個人事業主はぜひ活用したいところです。

メリット(3)屋号名で銀行口座、カードが持てる

銀行口座やカードの名義を個人事業主の屋号で持つことができるのも、大きなメリットとなるでしょう。口座の開設には「開業届の控え」が必要です。

入金先を個人名ではなく屋号にすることで、取引先からの信用アップにつながります。またネット通販などの小売業、セミナーやイベント事業などで支払方法に銀行振込を採用している場合にも、屋号と口座名義が一致していれば利用者が戸惑うことなく入金を行ってくれる効果が期待できます。

メリット(4)条件によっては補助金・給付金などが受けられる

開業届を出した個人事業者に対しては「小規模事業者持続化補助金」をはじめとした補助金や給付金などの制度も用意されています。目的によってさまざまな種類があり、原則返済義務がないのも大きな利点です。

ウィズコロナの時代となり、国や地方自治体による支援金の話題を目にすることも多くなりました。個人事業主が受け取れるものもたくさんありますので、条件に合うものがあればぜひ申請を検討しましょう。

デメリット(1)失業給付がもらえない可能性

メリットばかりに思える開業届ですが、一部の方においてはデメリットを生んでしまうケースもあります。その1つが、個人事業主は失業給付の対象外となる可能性があることです。

失業手当は再就職を目指す人に向けて給付されるものとなります。開業届の提出は「自分で事業を手掛けることの証明」となるため、個人事業主の登録がある場合には再就職の意思がないと判断されてしまうかもしれません。

企業を退職後に独立したい方、そして企業で働きながら副業を考えている方は留意すべきポイントとなるでしょう。もし独立までの過程で失業給付を受けることを想定しているなら、開業届を提出する時期について検討する必要がありそうです。

デメリット(2)一部の青色申告には少し手間が掛かる

青色申告においても、場合によっては準備に時間や手間を要することがデメリットとして考えられます。青色申告にも種類があり、最大55万円もしくは65万円の青色申告特別控除を利用するには正規の簿記となる「複式簿記」を行わなければいけません。

また「貸借対照表」と「損益計算書」の作成が確定申告の際に必要です。なお10万円の控除については簡易的な「単式簿記」で問題なく、「貸借対照表」「損益計算書」ともに不要です。

開業届は出さなくても良い?

開業届は出さなくても良い?

開業届については「事業開始から1ヵ月以内に税務署長に提出しなければならない」と所得税法229条で定められています。よって厳密には、開業届を出さずに事業を行うことは法律違反です。

しかし実際にすべての個人事業主が開業届を出しているかといえば、そうでもないのが現状のようです。もし開業届を出さなかった場合にはどうなるのか、そして開業届を出さなくても事業を行うことはできるのか、以下にまとめました。

開業届の未提出による罰則はない

開業届の未提出による罰則はない

前述の通り、開業届の提出は所得税法によって定められています。よって開業届を出すことは個人事業主の「義務」です。

しかし開業届の提出が遅れた場合や、開業届を出さずに事業を始めた場合でも、それらの行為に対する罰則は設けられていません。よって開業届の提出については「努力義務」という表現が適切でしょう。

ただ未提出のまま事業を進めた場合、特に節税の面で不利益が出ることは容易に想像できます。詳しくは次の項目でご説明します。

継続的に所得があるなら必ず出すべき

現状は開業届を出さなくても罰せられることはありません。しかし順調に収入が得られている状況であれば、開業届を出さないことで損をするのは間違いないでしょう。

理由は先ほどの項目でご説明した「開業届を出すメリット」そのものとなりますが、開業届を出さず確定申告もしないのであれば、場合によっては脱税がバレて今度こそ罰せられるリスクを負うことになってしまいます。

節税などの恩恵だけでなく、個人事業主として真っ当な形で事業を行う証の1つにもなる開業届。提出は原則義務であることを忘れてはいけません。

開業届の代わりになる書類

「事業開始等申告書」(東京都主税局)

手間が掛からずに記入できて、提出することでのメリットも多い開業届。作成費用や提出できる条件など、不安や心配をお持ちの方がいらっしゃるかもしれません。

多くの方にとっては慣れない手続きとなりますので、作成において不明な点はあらかじめ解消しておきましょう。

開業届に費用は掛かる?

法人登記には書面、オンラインを問わず手数料や印紙代などの費用が発生します。しかし開業届の手数料は無料。金銭的な負担を要することなく提出できます。

あえて必要な費用を挙げるなら、書面を税務署に郵送した場合の送料程度。用紙はダウンロードが可能でe-taxを使った電子申請もできるので、開業届は金銭的な負担がなく出せると考えて問題ありません。

事業所は自宅でいいの?

開業届の記入項目にある「納税地」は住所地、居所地、事業所の中から選びます。事業所はあなたが仕事をする場所となりますので、もし在宅で仕事をしようと考えているなら自宅の住所を事業所として記入する形で構いません。

もし自宅以外の場所を事業所として届出したい場合、コストが掛からないシェアオフィスやバーチャルオフィスを利用するのも選択肢の1つです。将来事業を成長させて法人としての登記を考えているなら、事業の拠点に検討してはいかがでしょうか。

副業の場合でも出すことができる?

最初の項目で触れた通り、企業に勤めている正社員も個人事業主になれます。よって開業届の提出は可能です。個人事業主のあなたは企業を離れた「別の顔」となりますので、開業届は副業として仕事を行う上で必要な届出であるという認識を持ちましょう。

ただしこれも繰り返しとなりますが、勤務先が副業を認めているかどうか、公務員の場合には副業として認められる業種であるかなどの確認は忘れずに行ってください。

収入ゼロでも開業届は必要?

収入ゼロでも開業届は必要

事業の立ち上がりは初期投資などもあって、なかなか利益が出ないという個人事業主は少なくありません。収入がゼロだと確定申告の意味がないのではと思いがちですが、長期的な目で見れば開業届を出しておく意味はあると考えてください。

青色申告を行う個人事業主の場合、赤字を最長3年間繰り越すことができます。つまり翌年から3年以内に利益が出ればそれまでの損失分と相殺可能となり、事業所得を減らすことができるのです。

事業が軌道に乗った後も納税額を抑えて負担を減らせるメリットは大きいので、開業届はぜひ出しておきましょう。

所感

誰でも手軽に出すことができて、手数料も掛からない開業届。ご紹介した通り、個人事業主として仕事をする方にはさまざまなメリットがある届出です。

開業届を出さなかったとしても罰則はありませんが、「所得税の青色申告承認申請書」と合わせて出すことで節税対策に欠かせない青色申告が可能となります。

さらにはあなたがフリーランスの立場で事業を行うことの証明、そして事業の社会的信用を上げるための手段としても活用できるので、先々のことを考えても開業届は出したほうが得であることは間違いありません。

あなたが個人事業主として独立する第一歩に、そしてまだ出していなかった皆さんもぜひ開業届を作成、提出することをオススメします。

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